令和7年度 Lectureship Award 受賞者について 2025.11.07
日本化学会コロイドおよび界面化学部会の令和7年度Lectureship Awardの選考委員会が、令和7年2月7日に開催され、推薦された候補者について賞選考委員会において慎重に審査を行った結果、下記の方々が選出されました。また2月10日に行われた役員会において、受賞者として承認されました。
第24回 Lectureship Award 受賞者
- Gregory Goodman Warr先生(The University of Sydney, Australia)
- Regine von Klitzing先生(Technical University Darmstadt, Germany)
選考理由
Gregory G. Warr先生は、水溶液、非水溶媒、イオン液体などのバルク相および各種界面における両親媒性化合物の構造・物性に関して、小角中性子・X線散乱測定、レオロジー測定、中性子反射率測定、原子間力顕微鏡などの界面構造解析手法を駆使して多様な研究を行ってこられました。最近は特に、イオン液体に着目した研究を展開されており、イオン液体の分子構造と化学的・物理的特性の関係、分子間相互作用や溶解特性、イオン液体中での両親媒性分子の自己組織化現象(ミセルや液晶など)を明らかにしているとともに、自己組織化構造体を特殊な化学反応場として用いる研究を推進されています。さらには、イオン液体内での長距離静電相互作用の存在を実験的に確認し、その現象のメカニズムに関する研究を行っておられます。また、エネルギー貯蔵材料や生物系の自己組織化に関する研究も展開されています。これらの研究成果は250報を超える学術論文で報告されています。
Warr教授は、2022年から現在まで、International Association of Colloid and Interface Scientists (IACIS)のPresidentを務められるなど、オーストラリアにとどまらず、世界のコロイドおよび界面科学コミュニティーを牽引する活躍をされています。小角X線・中性子散乱法に係わる研究分野においても、ANSTO (オーストラリア)などの運営で先導的な役割を果たされています。さらに、日本の大学などとの共同研究や博士研究員、学生の交換留学などの実績もあり、今後も継続されることが期待されます。
以上のことから、Warr教授は、Lectureship Awardを受賞するにふさわしいと判断されました。
Regine von Klitzing先生は、比較的単純な系が対象であったコロイドおよび界面化学分野の従来の基礎研究の対象を、生命科学や工学系のより重要で複雑な系に展開し、中性子・X線小角散乱、動的光散乱、原子間力顕微鏡インデンテーション、高精度液体薄膜分離圧測定などの先端計測法を駆使し、新規性の高い研究を展開されています。特に、固体表面間の閉じ込め空間での複雑液体(例えば、懸濁液、ポリ電解質溶液、ミセル溶液)に観察された振動力のよく知られたスケーリング挙動が、固体表面の性質(電荷や柔軟性)によらず成立することを見出されています。また、独自の薄膜圧計測技術を用いた気/水界面における負の電荷の存在を強く示唆する結果や、粒子の電荷と柔軟性がその秩序形成と界面力、ひいては泡の安定性に大きな影響を与えることを報告されています。さらに、熱感受性マイクロゲル粒子やタンパク質のようなより複雑な物質を泡膜安定化剤として用いた研究なども展開され、多くの優れた成果を挙げておられます。これらを含むこれまでの研究成果は約300報を超える学術論文で報告されています。
von Klitzing 教授は、様々な研究機関のアドバイサーや欧州コロイドおよび界面学会の副会長などとして多彩な活動を行われており、欧州の当該分野を率いるリーダー的存在として活躍されています。当部会に対しても、部会員との交流を通じてその発展に大きく貢献して頂けることが期待されます。
以上のことから、von Klitzing 教授は、Lectureship Awardを受賞するにふさわしいと判断されました。
