公益社団法人日本化学会 : コロイドおよび界面化学部会

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平成31年度科学奨励賞および技術奨励賞受賞者の決定 2019.09.02

平成31年1月25日(金)に化学会館にて行われた賞選考委員会を経て役員会にて、下記の方々が平成31年度科学奨励賞および技術奨励賞の受賞者として承認されましたので、ご報告致します。

平成31年度 科学奨励賞受賞者

菱田真史 氏 筑波大学
「リン脂質二重膜の諸物性に対する疎水性添加物および水和の効果の体系的理解」
渡邉智 氏 熊本大学
「ソフトリソグラフィー法を基盤にした新しい光・電子・メカノデバイスの創出」

平成31年度 技術奨励賞受賞者

田中佳祐 氏 株式会社コスモステクニカルセンター
「クラフト点以下における両親媒性物質の会合体形成・安定性と機能性素材の開発および応用展開」

選考理由

菱田氏は、膜の弾性、形状あるいは相挙動などの膜物性に及ぼす有機分子の添加効果が有機分子の鎖状部とコア部の分子形状によって分類できることを実証し、その体系化を達成されました。この成果は生体膜内の有機分子の役割の理解を大きく進展させるだけでなく、これまで網羅的に行われてきた製薬や化粧品などの設計指針への貢献が大いに期待されます。またリン脂質や界面活性剤の水和状態の観察にテラヘルツ分光法を世界に先駆けて導入され、第二水和圏を含む水和層が従来法(NMR法など)で算出したものより4~5倍の長距離であることを証明されています。さらに、長距離水和状態が膜の相挙動や膜同士の相互作用に密接に関与していることを発見されました。このように、コロイド界面化学とソフトマター物理学・生物物理学を横断的につなぐ新しい研究分野を創出されていることから科学奨励賞に相応しいと評価されました。

渡邉氏は、トップダウン技術の「リソグラフィー」とボトムアップ技術の「自己組織化」とを融合した新規なデバイス やデバイス作製プロセスの開発で大きな成果を挙げておられます。具体的には、近赤外光を可視光に変換するアップコンバージョン発光希土類ナノ粒子とポリマーアレイ導波路とをソフトリソグラフィー法を利用して組み合わせてフォトンマトリックス方式デバイスを創出し、高透明度フレキシブルディスプレーへの道を切り開かれています。さらに、光の吸収線幅の狭い希土類粒子を発光材料ではなく、光熱変換材料として利用し異なる波長で異なる部位が変形できる近赤外多波長応答ゲルアクチュエータを創出され、生体内で駆動できるマイクロロボットやアクチュエータの研究分野に大いに貢献されています。このように、トップダウン法とボトムアップ法を融合した新しい構造構築制御技術を開拓されていることから科学奨励賞に相応しいと評価されました。

田中氏は、クラフト点以下のあらゆる温度および広い濃度範囲で安定な高水和ゲル(αゲル)を形成する化合物群を発見し、実際の製品に応用し、産業科学技術の発展に大きく貢献されました。具体的には、化粧品やトイレタリーのスキンケアおよびスキンケア製品に応用されている保水性に富む高水和ゲルは、これまでは複数の成分を組み合わせてゲル状態を維持させていましたが、長鎖アルキルリン酸のL‒アルギニン塩が単独で安定なゲルを形成することやαゲルの安定化には束縛水が寄与していることなどを明らかとされました。さらに、高級アルコールを混合してもゲル状態を維持することや様々な油剤が乳化できることなども証明されています。このように、非常に有用な機能性素材の開発に成功されたことから、技術奨励賞に相応しいと評価されました。

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