コロイド先端技術講座2022 ソフトマターの「液液」相分離 2023.01.11
協賛(予定):ナノ・バイオメディカル学会、応用物理学会、化学工学会、高分子学会、日本レオロジー学会、日本化粧品技術者会、日本香粧品学会、色材協会、日本生物工学会、日本熱測定学会、日本農芸化学会、日本膜学会、日本薬学会、日本薬剤学会、日本DDS学会、日本油化学会、粉体工学会、日本物理学会、日本生物物理学会、日本分析化学会、界面動電現象研究会
日時:2023年3月16日(木)9:35〜17:30
会場:日本大学理工学部駿河台校舎タワー・スコラ(東京都千代田区駿河台3丁目)
ただしコロナ感染状況によってはオンライン開催に変更する可能性があります
会告:https://colloid.csj.jp/media/2023/01/2022hitech.pdf
開催概要:近年、「液液相分離」という言葉が様々なソフトマター分野で使われている。細胞内における生体分子の相分離もあれば、タンパク質の産業利用における相分離、医薬品製剤が溶解過程で形成する相分離なども「液液相分離」と称され、多様な観察手法によりその構造や機能が観察されている。これら、様々な分野における液液相分離現象を俯瞰的に眺め、分野間の類似性と相違性などを議論することで、今後の各研究の発展を促したい。シンポジウムの最後には総合討論を行う。
プログラム
9:35 – 9:40 趣旨説明 川上亘作(物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点)
9:40 – 10:40 【基調講演】粘弾性相分離現象と生体内相分離
田中 肇 先生(東京大学 先端科学技術研究センター)
10:45- 11:45 【基調講演】タンパク質凝集の制御法と産業応用
白木賢太郎 先生(筑波大学 数理物質系)
12:45 – 13:35 分子夾雑環境の一つとしての液液相分離:ラマン顕微鏡によるラベルフリー濃度測定
中林孝和 先生(東北大学大学院薬学研究科)
13:35 – 14:25 鎖長多分散な高分子混合溶液がしめす細胞サイズ依存的な相分離
柳澤実穂 先生(東京大学大学院総合文化研究科)
14:35- 15:25 核酸の非標準構造が誘起する液液相分離の配列選択的制御方法の構築
三好大輔 先生(甲南大学フロンティアサイエンス学部)
15:25 – 16:15 過飽和製剤開発における薬物液液相分離現象の定量的理解の重要性
植田圭祐 先生(千葉大学大学院薬学研究院)
16:25- 17:30 【総合討論】なぜ「相」は選ばれているのか? ~モデル実験の意味について~
湊元幹太 先生(三重大学大学院工学研究科)の導入講演に続けて総合討論
参加費:部会員10,000円 日化・協賛学会員15,000円 非会員20,000円 学生(部会員)3,000円 学生(非会員)5,000円
※参加費は全て税込価格となります。
※ご勤務先が法人部会員の場合は部会員、日本化学会法人会員の場合は日本化学会員、協賛学会法人会員の場合は協賛学会員扱いとなります。
参加申込
以下よりお申し込みください。
https://colloid.csj.jp/form/view.php?id=24051
申込は当日まで受け付けますが、対面の申込受付はしませんので、当日でも本サイトからお申し込みください。当日の円滑な運営のために、可能な限り3/14(火)までのお申し込みにご協力よろしくお願いします。
お問合せ
日本化学会 コロイドおよび界面化学部会
E-mail: jigyoukikaku_02(at-mark)colloid.csj.jp
※「(at-mark)」は半角の「@」へ変更してください。
講演概要
粘弾性相分離現象と生体内相分離
田中 肇 先生(東京大学 先端科学技術研究センター)
近年、細胞質や核に存在する膜なしオルガネラを形成する生物相分離とその生物学的機能が注目されている。液体状の凝集体は一般に球状の液滴として形成される。一方、最近、タンパク質顆粒、局在体、中心体集合体など、ネットワーク状の形態を持つ様々な凝集体が細胞内で発見された。ここでは、ソフトマター物理学における粘弾性相分離の知見に基づき、2相間の分子ダイナミクスの差が相分離により形成される凝集体の形態を制御している可能性について議論する。具体的には、2相間の移動度の差が小さいと液滴状、大きいと遅い相が少数相であってもネットワーク状の形態をとることが予想される。また、生物学的反応や力学的機能面から見たネットワーク状の相分離形態の持つ特性についても考察する。
タンパク質凝集の制御法と産業応用
白木賢太郎 先生(筑波大学 数理物質系)
タンパク質は本来、凝集や相分離をしやすい性質を持つ。タンパク質凝集の制御技術はこれまで、バイオ医薬品や食品など広く産業的に価値のある分野として研究が進んできたが、最近では、細胞内のタンパク質相分離が多様な生命現象と関連していることでも注目を集めている。本講演ではタンパク質の凝集や相分離が、溶液の性質としてどのように理解され、低分子の添加剤を入れる程度の簡単な方法でどこまで制御が可能なのかをお話ししたい。
分子夾雑環境の一つとしての液液相分離:ラマン顕微鏡によるラベルフリー濃度測定
中林孝和 先生(東北大学大学院薬学研究科)
生体分子の液液相分離(LLPS)の研究において、ラマンイメージングを用いたラベルフリー単一液滴計測を提案している。特に緩衝溶液中における単一液滴内のタンパク質濃度を定量し、pHや塩濃度、さらに周囲の夾雑環境の変化に伴う濃度変化を示している。本発表では今まで行ってきた緩衝溶液中の液滴のみではなく、細胞内のメンブレンレスオルガネラの定量を行った結果も紹介する。細胞内は生体分子が非常に混み合った分子夾雑環境にあり、LLPSによって生じた生体分子の高濃度液滴も細胞内分子夾雑環境の一つとみなすことができる。本発表では液滴内の濃度定量を通して、細胞内分子夾雑環境と細胞内で生じた液滴との関係について議論を行う。
鎖長多分散な高分子混合溶液がしめす細胞サイズ依存的な相分離
柳澤実穂 先生(東京大学大学院総合文化研究科)
マイクロメートル程度の大きさをもつ細胞内には、多様な生体分子が高濃度で存在している。近年、こうした生体分子が示す相分離や、相分離凝集体の液-固転移が注目されている。我々は、こうした相転移メカニズムに対し、人工細胞を用いることで細胞サイズの空間がもたらす影響を研究してきた。本講演では、鎖依存的な高分子の細胞膜への濡れ性と、高分子鎖長の多分散性によって生じる細胞サイズ依存的な相転移現象について紹介する。
核酸の非標準構造が誘起する液液相分離の配列選択的制御方法の構築
三好大輔 先生(甲南大学フロンティアサイエンス学部)
分子夾雑な細胞内環境において必要な反応を必要なタイミングで遂行するためには生体分子の液液相分離能が重要である。特に核酸の関与する液液相分離は、既知の分子機構と協調しながらセントラルドグマを重層的に制御していることが明らかにされつつある。液液相分離に関与する分子種が次々と明らかになりつつあるが、その選択的制御方法は殆ど報告がない。そこで本発表では、オリゴ核酸とペプチドからなる液液相分離モデルシステムの構築と、核酸配列選択的な液液相分離制御方法を報告する。液液相分離の選択的制御方法は、神経変性疾患をはじめとする種々の疾患に対する新たなモダリティの創出にもつながると期待される。
過飽和製剤開発における薬物液液相分離現象の定量的理解の重要性
植田圭祐 先生(千葉大学大学院薬学研究院)
近年多くの新薬候補化合物の多くが難水溶性を示し、経口投与製剤としての開発には溶解性改善技術が求められている。難水溶性薬物の経口吸収改善技術として、経口投与時に薬物過飽和状態を形成する非晶質固体分散体などの過飽和製剤が広く活用されている。一方、過飽和製剤投与時の消化管における最大過飽和溶解量は薬物の液液相分離により制限されるため、薬物の液液相分離現象の定量的理解は過飽和製剤設計において重要となっている。本発表では各種製剤添加剤が薬物の液液相分離濃度や液液相分離により形成される薬物濃縮相物性に及ぼす影響について紹介する。
なぜ「相」は選ばれているのか? ~モデル実験の意味について~
湊元幹太 先生(三重大学大学院工学研究科)
「液液」相分離が細胞内で一般的な現象であり、細胞の構造(区画)・機能の生成・制御に深く関わっていることが、近年、明らかになってきた。一方、細胞の細胞膜系も油と水の相分離と見なすことができる。おそらくは前生物的な環境でこれらの構造が選ばれてきたと考えられる。脂質二分子膜が選ばれている生物学的な「利益」は多岐にわたるが、一番はエネルギー変換の場となることであろう。「液液」相分離にはどのような「利益」があるのか。リアルな細胞は用いない簡単なモデル実験の結果でそのことを考えながら、総合討論に移りたい。